赤石朋也(あかいしともや)は年上の美しい恋人、榊原充月(さかきばらみつき)の部屋にいる。今日はよく晴れた休日。久しぶりに二人きりで楽しい時間が持てそうだ。そのためにも、早く洗濯などの雑事は終わらせたい。

脱衣場にある脱衣カゴの中には充月の洗濯物が入っている。朋也は手馴れた様子で、それらを洗濯機に入れていく。
くつした、シャツ、ハンカチ、タオル…。色おちしそうな物や、傷みそうな物はよけておいて、後から別に洗う。

カゴの中には、無造作に脱ぎ捨てられた下着もある。朋也はそれを見つけてニッコリ笑う。
充月と恋人同士になって、約1年。その前から充月の食事を作ったり部屋を掃除したり、家政婦まがいの手伝いはしてきた。
もちろん、洗濯もそうだ。

だが、最初のうちはシャツやくつしたの類は洗濯カゴに入っているものの、遠慮しているのか、下着は入っていなかった。
きっと充月は、下着だけは自分で洗っていたのだろう。

それが、ようやく下着も洗濯させてくれるようになった。
自分に対して、充月が気を許している証拠だと思うと、無性に嬉しい。思わず、下着を握りしめて口元を緩めてしまう。

「朋也、なに笑(わろ)てんね?」
「あ、充月さん」
声がする方を見れば、充月が戸口に立っている。休日の充月は、いつものダークグレーのスーツではなく、淡い色のシャツに綿パンと、リラックスした格好だ。
透き通るほどの白い肌に深い蒼色の瞳、通った鼻すじ、薔薇色の唇と、メガネをかけていてさえ麗しい。
何度見ても、ハッとさせられるほどの美しさだ。

その美しい顔が、自分を見て優しく微笑んでいる。深みのあるよく響く声で、自分の名前を呼んでいる。
それだけで、朋也の胸は高鳴る。

「洗濯、終わったか?」
バランスのとれた長い手足をゆったり動かして、充月は朋也の隣に立つ。
並んで立てば、長身の自分とそう背丈はかわらないが、体つきは華奢だ。肩より長い髪をひとつに束ねているので、シャツの襟元から細い鎖骨が見えかくれしている。

「朋也?」
「は、はい。すぐに」
近づいてくる充月に見惚れていて、朋也の手は止まっていたが、うながされてようやく動きだす。適量の洗剤を量りいれ、フタを閉めてボタンを操作する。

「あとは洗濯機にまかせとけばOKです」
「せやな」
頷いて、充月は横目で朋也を見る。
「さっき、私が入って来た時、なに笑(わろ)てたんや?」
「ああ」
洗濯カゴをもとの場所にしまいながら、朋也は言う。

「あなたの下着、見てましてん」
「私の、下着を?」
「はい。ようやく、僕に洗濯させてくれるようになったなあ、て」
「…言われてみれば、そうやな」
充月自身、意識してそうしていたわけではないらしい。

無意識に下着を出してくれるようになったと知って、朋也はますます嬉しくなる。
「充月さん。僕、あなたがどんな下着つけてるのか、想像してましてん」
「え?」
「あなたと初めて会(お)うた頃やさかい、もう2年ちかく前ですけど」

朋也と充月は、警護者と要警護者として出会った。
初めて充月を見た時、朋也は世の中にこんなに美しい人がいるのかと、本当に驚いた。声をかけて振り向いた充月は、朋也の知るどんな女性よりも麗しく、凛として落ち着いた物腰をしていた。ひと目で強く惹かれたが、そばにいるうちにもっと引き寄せられて、いつの間にか焦がれるほど好きになっていた。

充月の警護で二人きりで事務所にいる時、朋也は自分の席からパソコンのディスプレイを見るふりをして、何度となく充月を盗み見ていた。
そして、この美しい人はどんな生活をしているのか、何を食べ、どんな部屋に住んでいるのか、思いをめぐらせていた。

「その時、あなたはどんな下着をつけてんのやろ、て。僕と同じボクサータイプやろか? ビキニタイプか、トランクスやろか? それとも、あの細腰やったら、女性用でもいけるんやないか」
「アホな」
充月は小さく笑う。
「ほな、私の下着を見た時、がっかりしたやろ。なんの変哲もない、ボクサータイプで」

「ガッカリいうか、ホッとしたいうか」
初めて充月の下着を見たのは、洗濯して干してあるものだ。形もサイズも色も、普通だった。
「そしたら、今度は下着の中身を、想像してしもて」
言葉が熱を帯びる。その熱に反応して、充月の目が強く光る。

「想像どおり、やったか?」
妖しい光を宿す目に見つめられて、朋也は腕をひろげて、ゆっくり充月を抱きしめる。
官能的な感触に、思わず熱いため息がもれる。いつもそうだ。充月の体に触れると、いや充月の存在を身近に感じるだけで、たまらない気持ちになる。胸の奥が熱くなって、いとしさがあふれてくる。もっと強く深く、感じたくなる。

朋也にとって、充月は扇情的で劣情を刺激する存在だ。ガマンできなくなる。
今も華奢な充月の体がきしむくらい、強く抱きしめている。
「充月さん」
余裕のない声で呼べば、年上の美しい恋人は艶然と口の端をあげて、目を細める。

許されて、性急に唇を重ねる。何度もついばんで、口を開いて舌で充月の舌をさぐり強く吸えば、
「朋也。ゆっくり」
「は…い」
たしなめられる。ひとつ深呼吸をしてから、もう一度唇を重ねる。

自分は息が苦しくなるほど胸を熱くしているのに、この美しい人はキスを味わう余裕がある。どうしても、充月が乱れるさまを見たい。
朋也は口づけを繰り返しながら、充月の腕をとって自分の首を抱かせる。そうして、ヒザで充月のヒザを深く割って、中心に手をあてる。

量感はあるが、まだ熱はない。布地の上から、手のひらで触れて手の甲で撫でてを、何度も繰り返す。
「ん」
少し、充月が反応する。

朋也は綿パンのボタンをはずし、ジッパーを下げる。今度は下着ごしに触れる。
「は…ア」
だんだん熱をおびてくる。
「今日は、普通のボクサーですね」
耳元で囁いて、耳朶を吸う。

「今度、下着プレゼントします。どんなんが、ええですか?」
朋也に触れられて、ますます充月は量感を増していく。布ごしにクッキリと形がわかるほどだ。
「こんなに、やらしいモン、おさめるんやさかい、うんとやらしい形が、ええですね」
指を立てて、下からなぞる。先端までなぞれば、指先に透明な粘液を感じる。
「ああ。蜜が、出てる」

囁いて、わざと指先で先端付近を何度も撫でる。
「あっ、い」
充月の顔を見れば、いつもは陶器のようになめらかで透けるように白いほほは、ほんのり上気して赤みがさしている。
うすく開いた口は、浅い呼吸を繰り返して、時おり甘い声を漏らす。

「かわいい、充月さん」
軽く口づけて、腕をほどいてゆっくり体を反転させる。洗面台に両手をつかせ、綿パンをヒザまでおろす。
充月の背中に自分の胸を密着させて、朋也は充月の中心に手を伸ばす。熱く強く変化した充月を下着ごしに握り、そのまま上下に扱く。
「ああっ」

「気持ち、ええですか?」
「う、くっ」
「もっと?」
「ん…」
「もう、トロトロや」

充月の耳を噛むようにして言った通り、朋也の手の中で充月自身はこれ以上ないほど怒張して、その先端からは透明な蜜をあふれさせている。
充月の小さなあえぎ声と、自分が荒く呼吸する音と、手で扱く淫猥な音とが、朋也の耳を刺激する。

「下着、ビキニとか、どうです? あなたは色が白いさかい、キレイな色が映えるやろなあ。リボンや、レースのついたのも、ええなあ」
「そんなん、イヤや」
「それは、充月さんは感じやすいさかい、すぐココが変化してまうから、でしょ」
「キミが、刺激するからや」
「そう」

充月の耳を噛む。
「あっ」
「あなたに、気持ちようなって、ほしいさかい。…も、イキたい?」
充月は小さく頷く。
「あ、直接、触って」
「アカン」
艶のある声での、ゾクゾクくるような申し出だ。だが、首を横にふる。
「このまま。イって。僕の手で、イって」

「イヤや。恥ずかし」
「なんで? ここには、僕とあなたしか、おらへん。なんも、恥かしコト、ないでしょ」
「イヤ」
「もっと、やらしい充月さん、見して。ぶっとんで」
「ああっ!」
早く強く、手を動かす。下着の中で、充月は最大限まで怒張して淫猥な音をたてている。

「も、アカン。アカン、て」
「イク?」
「イク、イク。あぁ、も、アカン! 朋也!」
朋也の名前を呼んで、体を固くして、充月自身は何度も何度もえずいて、快感の証しを射出する。

「あ、あぁ…」
かすれた声をしぼり出して、ようやく荒く呼吸しはじめる。力の抜けた充月を腕で支えて、朋也は床に座らせる。
いまだ動けない充月の前髪をかき上げ、朋也は額に口づける。

「気持ち、よかった?」
訊けば、薄目を開けて睨まれる。
「アホ。出かけようて、言うてたのに」
「動けへんのですか? そんなに、よかったん?」
目だけで頷いて、熱いため息をもらす。

「嬉しい。かわいい」
いつもは冷静で、弁護士という職業がらほとんど感情を顔に出さない充月が、自分の手で乱れて甘い声をあげて、頂点をむかえた事が本当に嬉しくて、朋也は満面の笑みをうかべる。
こんな風に、体だけではなく心の奥底まで触れあって、全てをゆだねてくれる充月がいとしくていとしくて、たまらない。

朋也の笑顔を見て、充月もまた穏やかな表情をうかべている。この年上の美しい恋人と、言葉にしなくても想いが通じあっていると思うだけで、朋也の胸は熱くなる。
「今日は出かけるのやめて、お部屋デートしません?」
「お部屋デート?」
充月を支えて立たせながら、朋也は提案する。

「はい。充月さんと僕、二人きりで一日中一緒にいるんです。一緒に食事して、一緒に本を読んで。映画を見るのもええな」
「悪ないな」
中途半端にヒザで止まっている充月の綿パンを脱がせながら、朋也は充月を見上げる。

「けど、その前に」
そして、充月の残滓が残る下着に手をかけて、スッとおろす。
「…ええですか?」
熱のこもった目で訊けば、充月はほんのり、ほほを赤らめる。

「ほな、これも洗濯しますね」
「え?」
立ち上がって、背中を向ける。
「今日はよう晴れて、洗濯日和や。他に洗いモンあったら、出してください」
洗面所の鏡ごしに見れば、後ろで充月が不満そうな顔をしているのが分かる。

「なんて、ね。ウソです」
充月に向きなおり、抱きしめる。
「冗談です。ホンマは、あなたを一日中抱きしめていたい」
朋也の冗談に、充月は腕の中でもがいて抗議する。朋也はさらに強く抱きしめる。
「あなたを誰の目にも触れさせたない。今日は、今日だけは、僕だけの充月さんでいて欲し」
首筋に顔をうめて言えば、小さくため息をついて頷く。

「ありがとうございます」
つぶやけば、優しく頭を抱かれて髪を撫でられる。充月の心に、自分以外の人もいると分かっている。だが二人でいる時には、充月は自分と真剣に向き合い、想いを受けとめてくれる。
「好きです、充月さん」
「私も」
唇を寄せれば、心もち口を開いて待っている。

充月の唇や舌の感触、息づかいを思うだけで、朋也は熱くなる。
二人だけの休日は、始まったばかりだった。


                                              おわり




  2012.07.07(土)


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