皇は遙の舌に自分の舌を絡ませながら、性急にシャツのボタンをはずす。脱がせたシャツを放って、パンツのベルトに手をかける。
「脱がすで」
耳朶をかむように言えば、腰を上げて協力する。下着と一緒にヒザまでおろせば、そこには容積を増した遙自身がある。

「ああ。スゴい」
クッションを背中にあてて、床に寝かせてパンツと下着を抜く。そのままヒザ頭に口づけて、尖らせた舌先でヒザの裏をくすぐる。
「うっ」
声がもれる。抵抗はない。皇は口元を歪めて笑うと、大きくヒザを割って直接遙に触れる。
太い幹を手で握って、上下に扱く。始めはゆっくり、しだいに早く激しく、扱く。

「あ」
皇の愛撫に、甘い声をあげる。遙が自分の手で気持ちよくなっている、そう思うだけで、皇の呼吸は早くなる。
もっと、気持ちよくしてあげたい。皇は体をずらして、手の中の遙に口づける。

「あっ」
舌を尖らせて、先端をつつく。すでに遙自身からは、透明な粘液があふれている。それを舌先で先端部に塗りひろげ、大きく口を開けて含む。
「う、あ、もっと」
浅く先端部だけを出し入れしているだけの愛撫に遙は焦れて、皇の髪に手を差し入れると、頭を固定しておいて自分から腰を動かす。

太い遙に気道までふさがれて、皇は息苦しいほどだ。それでも遙の動きに合わせて、舌と唇と手とを使って、遙の快感を押しあげていく。
「あ、あ。も、アカン」
内股が緊張して、太い幹の向こうにある肉色の袋がせり上がっている。もう限界が近いのだろう。

「イキたい?」
舌で鈴口の裏をくすぐりながら、目で訊く。
「王子も、一緒に」
遙もまた、息をはずませている。押し寄せる快感に耐えてきつく眉を寄せながら、細く目を開けて皇を見上げる。

艶のある声に請われて、皇は剥ぐように服を脱ぎすてる。全てを脱いで、怒張している自分自身と遙とを重ねる。
「一緒に、イこ」
口づける。何度も唇を重ねながら、皇は自分と遙とを握って、強くこすり合わせる。

「あ、スゴ、い」
「俺も、気持ち、ええ」
「あ、あ、アカン。出る…っ!」
その瞬間、遙は体を固くして、腹に何度も何度も快感の精を射出する。皇もまた、自分の指を濡らす。

ゆっくりと覆いかぶさって、遙の体を抱きしめる。汗でしっとりと濡れた首筋に口づけ、耳に口づける。
「大将…遙」
だが、皇の声は遙には聞こえていない。遙はアルコールが回ったのか、そのまま眠っている。
「なんや。眠ってしもたんかいな」
気づいて、皇は苦笑いする。

「遙。俺は、あんたが好きなんや」
汗の冷えた遙の体をきつく抱きしめる。ため息とともに、気持ちがあふれる。涙がひと筋、ほほを伝って、遙の胸に落ちていった。



翌朝はいつもどおり6時には仕込みを始める。
「おはようございます」
「おはよう」
あのあと、眠る遙の体を清めて、何とか下着だけはかせた。体が冷えないように毛布はかけておいたが、そのまま朝まで寝ていたようだ。

朝起きて、どんな顔をして遙に会えばいいのか、皇はさんざん迷って厨房におりて行ったが、遙は普通に返事する。
仕込み作業の時も、昼営業の時も、夜営業の時も、全然いつもと変わらない。
昨夜の事は都合のいい夢で、実際にはなかった事なのか。皇が真剣にそう思うくらい、遙の態度はいつもどおりだ。

…なんなんやろな。
店の掃除も終わり、夕食を摂ったあとは遙が先に風呂を使う。皇は蒸し暑い自分の部屋の窓を開けて、わずかばかりの涼をとりながら、夜空を見上げる。
昨夜の遙は、普段は飲まないビールを大量に飲んで、相当酔っていた。皇との事も覚えていないのかもしれない。あるいは、酒の上での過ちと、なかった事にしたいのかもしれない。

遙がなかった事にしたいと思うのであれば、皇もまた忘れるしかない。だが、こうして目を閉じれば遙の体が浮かび上がる。実際に触れた遙の体は、皇が想像していたよりずっと大きく、熱くて重かった。
皇の手は遙の熱さを覚えているし、唇は遙の柔らかさを覚えている。忘れようにも忘れられない。忘れたくない。
「ああ」

ヒザを抱いてため息をついたところで、ドアがノックされる。
「王子、風呂あいたで」
「はい」
返事して立ち上がる。余計な事を考えずに、今夜は早く風呂に入って早く休もう。
着替えを持ってドアを開ければ、遙は居間で水を飲んでいる。
「風呂、もらうで」
「王子」
ぎこちなく声をかけて行こうとする皇を、遙は呼びとめる。

「風呂出たら、俺の部屋に来てんか」
それだけ言うと、皇の返事も待たずに自分の部屋に入る。
部屋に来いと言うからには、何か話があるのだろうし、その話は十中八九、昨夜の事だろう。そして今日の遙の態度やさっきの声からして、皇にとってあまり嬉しい内容ではないだろう。

皇は気が重くなる。昨夜の事はなかった事にして欲しいとキチンと伝えようとする辺り、生真面目な遙らしい。だが、そんな話は聞きたくないし、聞いてしまえばお互い気まずくなって、ここには居られなくなる。
「ハァ」
しかし、遙の言葉を無視するわけにもいかない。皇は風呂に入っている間に覚悟を決めて、遙の部屋をノックする。

「かまへん」
すぐに中から応えがあって、ドアが開けられる。促がされて、初めて遙の部屋に入る。10畳くらいの洋間には大きな本棚があって、料理関係の本がキチンと並んでいる。壁ぎわにベッドと、机にイスがあるだけの、シンプルな部屋だ。
「そこに座ったらええ。涼しいで」
言われるままに、ベッドを背にして座る。遙の部屋にはエアコンがあって、快適な室温だ。

「王子の部屋にはエアコンがないさかい、暑いやろ。少し涼んでいったらええ」
「は? はあ」
もしかして、このために自分を部屋に呼んだのだろうか。いや、そんなはずはない。
「大将。なんぞ俺に話があって、呼んだんとちゃうんか?」
遙の目を見つめて、皇から切り出す。
「もしかして、昨夜のコトか?」

「せや」
遙は一瞬、複雑な目をして、大きく頷く。
「昨夜、俺は王子とキスしたな」
「キス以上のコトも、したで」
「俺、酔うてて、よう覚えてへんのや」
そこまで言って、言いよどむ。その表情から、遙の次の言葉が用意に想像できる。

「ほんでな、」
「忘れて欲して、言うんか?」
確かめたくはない。だが、確かめずにはいられない。苦しい言葉をはく。
「酔うた上での過ちやったと」

「王子」
遙は皇の隣に座る。
「俺は王子にそんな苦しい顔、して欲しないんや」
遙はそう言って、皇の顔を覗きこむ。皇は口をつぐんで、遙の目を見る。
「つらい思いもして欲しないし、哀しい思いかてして欲しない」
遙の目は、優しい色を帯びている。

「昨夜のコトかて、酔うてたから出来たて、そう思われたない。俺は、」
ここで少し、言葉を切って、
「王子と、ちゃんと触れ合いたい」
フッと、目元を緩ませる。

「大将は、ドコまで覚えてんね?」
思ってもみなかった遙の言葉に、皇の胸は高鳴る。だが、声の震えを隠して、慎重にそう訊く。
「酔うてて、ほとんど覚えてへんのやろ? 俺が、男が好きやて言うたの、分かってんのか?」
「へえ。ああ、そうなん」
気負っている皇が拍子抜けするほど、遙の反応はアッサリしたものだ。

「別れたけど、男の恋人かておった。俺が好きになんのは、必ず男なんやで」
「俺かて男の王子が好きや」
「せやから…え?」
思わず、遙の顔を凝視する。遙の目は真剣そのもので、冗談を言っている目ではない。
「なんやて?」

「俺は王子が気になってしゃあないて、言うたやろ。昨夜、一人で王子の帰りを待ちながら、あの
男と一緒におるんかと思たら、なんや知らん、モヤモヤして。飲まない酒を飲んで」
「うん」
「王子が帰って来えへんかったら、どないしよて、そればっかり思てた。帰って来てくれて、嬉しかったんや」
遙は腕を伸ばし、そっと皇のほほに触れる。
「嬉しかったんや、ホンマに。…俺は、おまえが好きなんや」
目を閉じて、顔を寄せて。ほんの触れる程度に口づける。

「知らんで」
ほほに置かれた遙の手に、自分の手を重ねる。
「そんなコト言うて。俺は、本気にするで」
「ああ」
遙は大きく頷いて、皇の体を抱きよせる。皇の胸に、じかに遙の鼓動が伝わる。皇の胸の鼓動に負けないくらい、遙の鼓動もまた早くて重い。

「王子が俺を嫌いやなかったら、俺と真剣に恋愛して欲し。ええか?」
返事が出来ない。あまりに幸せすぎて、嬉しすぎて、何と答えていいか、頭が働かない。だから、答えるかわりに、強く遙の体を抱きしめる。
「王子」
「俺も、あんたと、恋愛したい」
遙の温かさに包まれて、ようやく震える声でそう告げた。




  2012.09.26(水)


    
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